第3章 彼女の事情

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「個展で会った数日後、七瀬さんのバイト先のコンビニで偶然再会したんだけど。それ以来通いつめて、待ち伏せもしちゃった」 「すごい、積極的」 「なりふりなんて、かまっていられないもん。じゃないと、七瀬さん、どこか遠くに行っちゃいそうで……」  そして、待ち伏せすること十数回。なんとか友達関係にまでこぎつけ、連絡先を交換したそうだ。 「彼氏ではないの?」 「残念ながら。何度かごはんを食べにいっただけ。しかも誘うのは、毎回わたし」 「でも七瀬さんは、赤羽さんの気持ちには気づいているんだよね?」 「気持ちはちゃんと伝えたんだけど、返事をはぐらかされちゃった。けど、たぶんそれはわたしを傷つけないためにだと思う」 「やさしい人なんだね。でもすごいね、自分から告白するなんて。七瀬さんっていくつ?」 「24歳。前は東京にあるゲームメーカーでデザイナーとして働いていたんだって」  会社の名前を聞くと、かなり有名なメーカーだった。テレビコマーシャルでもよく見聞きする一流企業だ。
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