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「櫻井、悪かったな。ふたり分でいくら? 細かいのがないから、とりあえず1万で」
「金はいらない」
「そうはいかないよ。わざわざ連絡までくれて、それだけでもありがたいのに」
ヨウくんはクールなバーテンダーさんとそんなやり取りをしていた。
クールなほうは、どうやら櫻井さんというらしい。ヨウくんとは知り合いみたいで、ヨウくんの頑固さに降参した櫻井さんが、ヨウくんからお金を受け取っていた。
「本当に正規の値段か? 酒なのに意外に安いんだな」
おつりを受け取り、それを財布にしまいながらヨウくんが言う。
「酒じゃないから。酒をオーダーしてきたけど、ふたりともジュースしか飲ませてないから安心しな」
「そうなのか? いやあ、なにからなにまで悪いな。櫻井の店でよかったよ」
ヨウくんと櫻井さんの会話を聞き、わたしと赤羽さんが顔を見合わせた。
「あれ、スプモーニじゃなかったんだ。だまされた」
「わたしも。お酒だと思い込んでた」
でもどうりで。やけに甘かったわけだ。わたしのはオレンジジュースで、赤羽さんのはグレープフルーツジュースだったんだろう。
「だましてごめんな」
櫻井さんはわたしたちに向かってそう言うけれど、その顔は無表情で、謝られている気がしない。
ヨウくんと同様にちょっと怒っているのかなという顔だった。
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