第3章 彼女の事情

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「ちなみにオーナーでもあるんだよ」 「オーナー!? うわっ、すごいんだね」  ヨウくんが言うには、櫻井さんには商才があるらしく、あのショットバー以外に3軒の飲食店を経営しているらしい。  それなのにファッションセンスはゼロなのか。ますます不思議な人だな、櫻井さんって。  そんな話をしているうちにあかね通り商店街の看板が見えてきた。  街灯にほんのり照らされている商店街を歩いていると、懐かしい気持ちになる。昔は誰にも気兼ねなく、ふたり並んで歩いていた。  面倒見のいいお兄ちゃんみたいなヨウくんと、ちょっと生意気な妹分のわたし。誰もわたしたちを変な目で見ることはない。兄妹みたいに仲がいいんだねと、商店街の人たちはあたたかく見守ってくれた。 「なんか久しぶりだな。こんなふうに一緒に商店街を歩くのって」 「わたしも同じこと思ってた」 「まずいもんな、生徒とふたりきりっていうのは。でも天音が高校を卒業するまでだから、あとちょっとの辛抱……って。なんで俺、こんなこと言ってんだろう」  ヨウくんが自爆して微妙な空気になってしまった。  あまり考えないようにしていたけれど、昨日の放課後のヨウくんの態度を思い出すと、この空気は居心地が悪い。
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