始まる恋

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

始まる恋

本体に戻った僕は目を開けた。 学生服を着た僕は女子中学生だ。 最近変な夢を見ると思っていたが、どうやら夢ではなかったようだ。 僕の家系は普通は見えないものを見る。 僕の場合は眠っている間にだけ見えるらしい。 しかも彼や彼女の言葉によれば猫になっている。 眠っている間に猫になって徘徊しているのだ。 しかも狙われている。 なんとかしなければと思うが、僕には手段がなかった。 そのとき玄関のチャイムが鳴って来客を知らせた。 母がいるはずなのだが出ない。 僕は玄関に行って扉を開けた。 すると目の前に彼がいた。 彼はにこりと笑うと僕の名を聞いた。 僕は思わず、ねこと呟いた。 彼は少し目を大きくして、それからまた笑った。 その笑顔にどきりとする。 僕はやっと理解した。 彼女を待つ彼を見て切なかったのは、僕が彼に恋してしまっていたからなのだと。 彼は、自分は遠い親戚だと言い、護り猫を置いていった。 これで眠っている間に本体から精神体が抜け出すことはないらしい。 僕はほんの少し寂しくなった。 猫として会っていた方が良かった。 僕は護り猫を閉じ込めた。 その夜僕は、猫になって自由に空中を飛び回った。 すると案外ひとでないものは多いようで、僕はそれらを見ながらいつもの桜の木の下へ向かった。 そこには彼がいて、僕を見て驚いた顔をすると、だめだろうと笑って言った。 僕は彼の肩に乗って彼を見た。 彼は仕方ないなと言って、正面…桜の木を見た。 じっと見ていると、一匹のうつくしい鬼が姿を現した。 「君はこれに引きつけられていたんだな」 彼がそう言うと鬼が目を開いた。 「何者じゃ」 彼は名乗って、この木がもうすぐ切られることを話した。 「なんと、人の世の(せわ)しいことよ」 鬼は木から出てきて、礼を言う、と言って去った。 「さて、君も帰らないとね」 彼がそう言った途端、僕は本体に引き戻された。 僕の体の上には護り猫が丸くなって乗っていて、僕はそのまま眠りに就いた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!