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少し苛立ちながらも、俺はすっと手を差し出した。
「・・・ありがと」
弘子は俺の手を取ると、青いビニールシートの外に脱いで揃えておいた草履に足を入れた。
その所作が美しく、いつもよりも艶かしい。
友人である美弥子のように派手な顔立ちをしているわけではない。だが、立ち姿、歩く姿など、その所作の一つ一つが美しいために、小さな頃から常に注目されていた。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花
まさに弘子のための言葉だ。
今も、近くで宴会をしている酔っぱらいが惚けたように弘子を見つめるものだから、俺は弘子にわからないようにガルルッと威嚇した。
そんな俺に気づいた友人は呆れた笑いをする。
「俺らは、こっちのほうが近道だから、じゃあな」
なるべく他の奴らには悟られないように、爽やかに声をかけてから、みんなとは反対方向に向かってゆっくりと歩き出した。
弘子の手を握ったまま。
「えー?優馬帰っちゃうの!?」
そうだよ、帰るんだよ、あとはお前らだけで盛り上がれ。
「お前ら、どこ行く気だよ!」
教えねーよ、特に弘子を狙っているお前にはな。
「送り狼にしか見えねー」
うっせー。放っとけ、そのつもりだっつーの!
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