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ぼんやりと光る行灯が、遠くの桜を見つめる弘子のうなじを更に色っぽく映していた。
思わず 、ごくんと唾を飲み込んだ。
落ち着け俺!
続く沈黙に俺の心は次第に焦り始める。
未だに握っている手にも汗が吹き出してきているのが感じられる。
お、落ち着け、俺。
弘子に気づかれないように周りに目を遣れば、ベンチが目に入った。
そうだ!次の行動だ!
この日のために何度も幼馴染とシミュレーションをした、計画を遂行せねば。
「ああ、あのさ、弘子」
「何?」
「明るいとこだけじゃなくって、暗いとこもさ、弘子に見せていい?」
景色はもちろん、俺の心の暗い部分も、という意味を込める。
「優馬?」
「とりあえず、あそこに座ろっか」
桜の木の下のベンチを指差した。
頷く弘子を誘導し、持っていたハンカチを広げて弘子を招く。
ベンチの背もたれに背中を預け、深く腰掛けた俺の右側に、弘子は浅く腰掛けた。
ーーいいか、まずは桜の明るさで感動させる。次に、暗さで少し怖がらせる。そして、ぐっと引き寄せて安心させるーー
「先程よりも少し暗い」は、二人の距離を縮めるはず。
幼馴染と考えた計画を頭で反芻する。
肩をぐっと引き寄せ、引き寄せ・・・
呪文のように心で唱え、行動に移そうと弘子をチラッと見たのがいけなかった。
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