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寝台の上で、薄らと目を開けた。
何か大切なことをしていた気がするのに思い出せない。
「……なにしてたんだっけ…あれ?」
私は起き上がろうとしてふと、シーツに滲んだ小さな水溜りを見つけた。
ハッと目を擦ると、手の甲に冷たい感触が残る。
「…私また、泣いてたんだ」
ランプの横に置いてあった手鏡を引き寄せると、もう片方の瞳にも雫が浮かんでいる。
そうだ、夢を見たんだ。
優しく震える肩を抱いて、指を温めるように絡ませてくれる、あの夢を。
もう絶対に離して欲しくなくても、いつかその温もりが消え去る瞬間がやってくる。
だから私は、天蓋のカーテンが揺れるだけで「ああ、まただ」と涙する。
どうして貴方なんだろう。
貴方の横にいられるなら、花も、ドレスも、何だって捨てられるのに。
「…姫様、お目覚めですか?」
ドアをノックする音がして、私は慌ててレースの布団に潜り込む。
「…まだお睡でしたか。お寝坊さんですね」
「うるさい」
「見なかったことに致します。朝食をお持ちしますから、20分後には起きておくように」
「…私、まだ眠らなきゃいけないの」
「……仕方ないですね。では30分後に」
シーツの端をそっと撫でて、足音は遠ざかっていく。
…そう、私はまだ眠らなきゃいけないの。
まだ貴方に会い足りないから。
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