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 彼らはだいたい、何も考えていないような顔をしている。眠たい目をして、どこを見ているやらわからない。顔が白いのも黒いのも、上あごと下あごを擦り合わせるようにして常に草を咀嚼している。五秒に一度くらいの割合で、群れの中のどれかが「ぼと」と脱糞している。  どれもこれも、半開きの目をして鳴くか、草を食うか、糞をひるかしている。  純白の柵が夜の牧場で鮮やかだ。  まるでハードルのように整然としている。  羊の群れは柵の左手にたむろっており、時を待っている。柵の右手には、どこまでも続く豊かな牧草だ。羊にとってはごちそうのテーブルである。  ここは、夢と現の狭間にある牧場。  ひとは必ずここを抜けて、眠りの世界に入る。    この牧場には熟練の羊飼いがいる。ちょうど、羊と同じように半開きの眠そうな目をしている。牛乳瓶底の眼鏡をかけて、いつもだるそうだ。     この羊飼いは、あくせく走り回ったりせず、突っ立ったまま、羊どもをまとめ、言う事をきかせることができる。  幾万もの白い奴らを、自分の手足の様に操る。やる気のない顔をして、実は結構な能力者だ。  羊飼いは羊どもがだいたい順番に並んだのを見定めると、手に持っていた棒を、左から右に、ふいと振る。  一匹目が、ほとほとほとほと小走りでかけてきて、白い綺麗な柵をぴょんと飛ぶ。  「めー」  と、羊はしわがれた声で鳴き、柵の向こう側でほとほと歩いてから、唐突に草をはみ始める。       
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