8人が本棚に入れています
本棚に追加
「奥さんがいてもいいの」と思わせぶりに呟きながら、気だるい目をして飛び越えるやつ――エロ不倫ものか、昼休憩の時間にちょうどやってるんだ。思わず観てしまうんだよなあ。
「あっ、明日、ごみの日だった」と、今思い出さなくてもいいようなことを叫びながら飛び越えていくやつ――悪意しか感じられない、なんだこいつ。あーくそ、ゴミ袋もうじき無くなるんだった。
「車検の日、いつだったっけ」
「あー、食費かさむわ」
「明日の仕事のシフト、あの人と組むんだったよな」
「うっわ、米炊く支度したっけ」
いちいち、気になってしょうがないことを呟きながら飛び越えていくのだ。
たまに、何も呟かないで大人しく柵を飛び越えるやつがいる。
そういうのが何頭か続くと、ほっと安心して、やれやれと力が抜け始める。
ところが、いい感じになってきた時、静かに羊らしく柵を飛び越えた一頭が、いきなりこちらを変顔で振り向いたりするのだった。なんというフェイントか。
「んめー」
一見普通の羊なのに、なぜか尻尾だけ、さらさらの光り輝く金髪のポニーテールだったり。
「めええええええ……んちカツ」
と、晩のメニューの案を叫んでくる奴がいたり。
どんどん悪化する。
羊の毛色も、文字通り目が覚めるような虹色だったり、蛍光塗料が塗られていたり。
最初のコメントを投稿しよう!