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そうしているうちに、店主が豆を蒸らし始める。コツコツコツと音がする。コーヒーの深い香りが漂う。おお、これだ。これが、欲しかったと最近喫茶店行けてなかったためか感動を覚えている。そうして、店主がフィルターにお湯を注ぐ。手首のスナップを聞かせて豆を攪拌する。どうやら、某Kコーヒー系列ではなさそうだ。と思っていると、店主はお湯を注ぐのをやめる。
そうして、私のテーブルの前にはコーヒーカップと小さな茶菓子が並んだ。僕は、ゆっくりと口をつけて、コーヒーを口に含む。うん、えぐみが少ない。確かに店主の言ってることは間違いではなさそうだった。けれど、それ以外がない。コーヒーはえぐみが少ない。これは大前提で、ほかに深み、うま味などがある。素晴らしいものになってくると、さらに、それに甘みが加わる。苦いコーヒーが甘いというのも変な話であるが、一瞬苦みが広がると、次にうま味、そして、後味が甘く感じるものである。だが、このコーヒーにはそれがない。とても、平坦なのである。無味と感じる。けれども、不味くない。でも、これは……。
私は、コーヒーを半分だけ、一気に書き込むと、茶菓子をほおばり、会計に走る。400円ですと店主は言う。私は、500円を渡し、お釣りを受け取る。その時に、店主は
「うちのコーヒーはどうでした?」
と、聞いてきた。私は、答えに詰まる。まずい?いや、そうではない。おいしい、それも違う。なんとも、答えにくい。苦肉のコメントは、
「ごちそうさまでした」
という返事のみであった。
私は店を出る。たまたま、店の隣に自動販売機が置いてあった。僕はそれを見ると、さっきのおつりをまだ手に握っていることに気が付く。自動販売機に100円を投入した。選ぶのは、……。ガコン。コーヒーが出てくる。缶の口を開けると、口に含んだ。私は、ただ一言。
「まずいな」
私は飲み干すと、自動販売機の隣にあるかごに捨てる。もう一度、先ほどの店のほうを振り返る。自慢のコーヒーの看板はまだそこにある。
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