春の雪

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春の雪

「ねぇ――春になったら雪を見に行かない?」 12月某所、僕たちはある公園にある1本の木の下に立っていた。その公園は近所では有名なスポットで春になると辺り一面に桜が咲き誇り、近くの川はその花びらで春の色に染まる。 その景色は何度見ても美しいものだ。 しかし、今は冬。花も咲いているわけでなく丸腰の木は季節に似合わず寒そうだ。 そして彼女はそんな木の下で言ったのだ。春に雪を見ようと。 意味がわからない。 「春に雪なんて降らないよ。奇跡とか起きない限り」 僕は彼女の言葉を否定した。 しかし、彼女は 「君は写真家になるのが夢だったよね?なら、雪が降ったら写真撮ってよ。絶対に降るから」 と、笑いながら言った。 まぁそれくらいなら、そう思い僕はそれを承諾した。生憎彼女は顔がよく写真映えする。 こうして、僕たちは丸腰の桜の木の下で約束をした。 しかし、その約束が果たされることはなかった。 パシャ、スタジオにカメラの音が鳴り響く。 あれから6年経ち僕はカメラマンになった。一応夢を叶えた人間の仲間入りを果たした。 「お疲れ様でした~撮影は以上です」 そんな声と共に仕事が終わり、僕は直ぐ様自宅に向かった。     
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