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帰り道には満開の桜が咲き誇り春を彩っていた。
僕はあれから1度もあの公園に行ったことはない。約束を交わした彼女はあの日から3か月後、春を迎えることなく亡くなった。持病の悪化が原因だそうだ。
少しあの約束の事を考えながら桜を見ていると、僕はふと足を止めた。いや、動けなくなった。
そこは、あの公園だった。無意識のうちにたどり着いていた。
しかし、そんなことは問題ではない。今目の前に広がる光景に僕は動けなくなったのだ。
そこには大きな1本の桜の木が立っていた。ただ、それだけなのだ。
しかし、その桜の花が舞い散る光景がまさに雪のように白く儚かった。
こんなの今まで見たことがない。
「――絶対に降るから」
彼女の言葉が甦る。
僕は思わずカメラを手に取り写真を撮った。
僕はこの光景を忘れはしないだろう。
そこには、満開の雪がヒラヒラと舞い降りていた。そんな中で彼女が笑っているように見えた。彼女はこれを見たかったのか。
僕はもう1度顔を上げその景色を目に焼き付けた。
満開に咲き誇る桜の木を、その中で微笑む彼女の顔を……。
奇跡を紡ぐ春の雪を。
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