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あたしは自分が怖いと思っていることを自覚した。寒いのだ。手から這い上ってくる、異様な冷たさ。死よりもつらい何か。彼は、そういうものの扱い方をよく知っているようだ。しばらくして、あたしはようやく、こんなことをしていてもどうにもならないと思いなおすことができた。それで深呼吸をして、目の前の異様な何かに問いかけた。
「素敵な仮面のお方、あたしはどうして待たれていたのかしら。お姫様じゃないあたしには王子様もいないはずよ」
「君を欲しいという団員がいてね。今度の賭けで勝ったら、ぜひ宛がってやろうと思っていたんだ」
会話はかみ合っているような形をとったけれど、あたしの声はまるで届いていなかった。あたしのことをこの鴉は完全に無視していた。どんな賭けだったか、どんな団員なのか、なぜ欲しがったのか――そういうすべてのことを尋ねる権利がないことはすぐにわかった。だってあたしは、形こそ彼らに似通っているけれど、彼らと同じものではない。立場が違うのだ。文句はつけられない。彼は突然歩き・・・・・・(続きは本誌で)
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