当たり前の階段

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   梅雨入り後、久々に晴れるという予報は見事に外れた。 記録的な豪雨により、電気系統に異常が発生、エレベーターが停止したらしく、現在は4台とも修理中。復旧には安全テストも兼ねて6時間はかかるそうだ。 外食で時間を潰すには、あまりにも長すぎる。スーツ姿の母さんは、階段で行くわよ。と返事もしない俺達にそう告げ、悠然と先頭を歩いて行った。  ツイてないのはこれだけではない。  大雨の中、学校まで迎えに来てくれた母さんの車に乗るなり、不穏な空気が漂っていることを ――朱美の表情と、母さんの声のトーンで―― 瞬時に悟った。 どういう訳か、2人は険悪なのだ。 こういう時は、顔を合わさず、時間を置けば、そのうち解消されるのだけれど、この状況ではそうもいかない。 目指すドアは遥か先、35階。感覚的にはもうかなり上っているが、まだ8階だ。  ひし形窓を見ながら額の汗を拭い、学生カバンの紐を肩に深くかけ直す。  ふと、後ろに目をやると、肩で息をする母さんが下の階から姿を現した。いつの間にか、これだけの差が開いてしまっていたようだ。少し待とうと、肩の力を抜き、今度は上の階を見る。 不機嫌な後ろ姿が、声をかける間も無く、9階へと姿を消してしまった。 8階から見る、7階の母さんと、9階の朱美。
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