1話「マイヒーロー」

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あらすじ 狼が全財産をなげうって依頼をしたのは、”殺し屋”赤ずきんだった。崩れ始めた”オトギバナシ”の中で、少女と獣人は”オトギバナシ”を殺すため、立ち上がる。 種族:狼男×赤ずきん? CP:♂×♀ 1話「マイヒーロー」作:古門黎文  転げるような形で飛び込んだ所為か、角に思い切り頭をぶつけた。同時に身体に注ぐ液体と脳天を叩いた固い何か。  ぐるる、と唸った男は長く突き出した口から幾本かの犬歯を剥き出しに黄金の目を吊り上げ、自慢の銀のタテガミを逆立てた。森の獣たち誰もが戦くその凶暴な見た目に反して、自慢の三角耳は情けなく真横に寝ていた。 「ってェ……なんなんだよ、ッひゃ!」  鋭い鉤爪の毛深い五本指。獣の如きその掌についた肉球に触れた冷感が再び男に情けない声を上げさせる。恐る恐る、薄暗がりで見たそれは、――……血?  男……狼男は今度こそ吠えた。 「ハァ。んだよ、葡萄酒か」  落ち着いてみれば香り高いいい葡萄酒だ。先程の騒動でぶつかったテーブルから落ちてきたとみえる何かの正体……グラスが彼を睨んでいる。  そいつに残った酒を舐め取っていい気になった男は、脳髄からじんわり降りる痛みに『早く逃げよ』という信号を鈍らせられていることに気が付いていない。獣は四つん這いから後ろ足で立ち上がった。まるでヒトのよう。 「ここは、……」  六尺はある大きな身体で辺りを見渡した。
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