一部 SCENE2 ~御殿場中央病院 災厄の発現~

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一部 SCENE2 ~御殿場中央病院 災厄の発現~

 一ヶ月後――。  御殿場中央病院で当直業務についていた内科医の村尾悟は、一服しようと屋上に来た。今日は特に急患もなく、穏やかな夜だった。もうすぐ夜が明ける。  晴れの夜なら空に満天の星が広がっている。しかし、今日は望むべくもなかった。雨こそ落ちてこないが、曇り空はまるで暗黒の宇宙の深さを表しているようだった。  不意に、屋上の先の方で「うわぁ」と呻き声のようなものが聞こえた。  何だ? 興味はあるが、危険も感じられたので足音を顰めながら近づいていく。  屋上の端々には申しわけ程度の電灯がある。その光を浴びて、男の姿が見えた。二人だ。  一人は良く知る男だった。戸山和夫、この病院の外科医だ。彼が、まるで感情が見えない虚ろな表情で立っていた。その視線が見下ろす先に、もう一人の男が蹲っている。どうやら患者らしく、パジャマを着ていた。  それにしても妙だった。なぜ当直でもない戸山が今の時間、ここにいる?  最近の戸山に関する噂を思い出す。  一ヶ月前に起きた富士山静岡空港近くでの不可解な旅客機墜落事故。その救助活動に加わって戻ってきてから、人が変わったようになったという。  以前の戸山は快活で明るい男だった。誰とでもすぐ打ち解け、大きな声でよくしゃべる。人気も高かった。    だが、あの事故後、戸山は無口になり、常に暗い表情をしていた。かと思うと、誰かに問いかけられて突然「うるさい」と声を荒げたこともあったという。彼が怒ったところを始めて見た、という看護士がいた。  そんな戸山の姿を見て、蹲る患者への対応が遅れた。本来ならすぐに症状を確かめる必要がある。
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