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彦兵衛は花蓮の池の淵を歩き出しました。
なぜなら御釈迦様がこの池の淵を歩いて来られることが彦兵衛には解っているからです。
やはり御釈迦様が歩いて来られました。
「彦兵衛。先ほど戻ったのですね」
「はい、先ほど」
彦兵衛は、悲しそうな表情の御釈迦様のお気持ちを察し、爽やかに話し続けました。
「御釈迦様。私は以前、この極楽で嘘をついたせいで、人として生きる修行に出ることになったのですね」
「そうです、彦兵衛は自分の心に嘘をついたのですよ」
今の彦兵衛は、その事がどんなにいけないことだったのかを深く理解しています。
「ところで、御釈迦様。人にとって『眠る』というのは、ひと時だけ極楽へ来られるということだったのですね」
「思い出したようですね。人は睡眠とも、休息とも、単に眠りとも呼んでいますね」
「生きていた頃、眠らずに働くことができればどんなに都合の良いことか、と眠ることを不思議にばかり思っていました」
「人は生まれ出ずる時に泣いて、亡くなる時は安らかな顔で極楽へ戻ってきます。それほど人として生きるというのは大変なことなのでしょう。一日に一度、極楽へ戻ってこないと修行も勤まらないのです」
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