6人が本棚に入れています
本棚に追加
御釈迦様は話し終えられると、彦兵衛の心遣いに感謝したご様子で、微笑みをお浮かべになって彼の横を通り過ぎようとされました。
「御釈迦様。先ほどから美しい銀色の糸が、指先に絡まっておられますよ」
「わかっているでしょうに。地獄のカンダタを眺めていたのです」
水晶のような透き通る水をたたえた花蓮の池は、やわらかな午の日差しに照らされていました。
それから、かなりの歳月が流れ、辰年のある日のことでございます。
極楽の彦兵衛は些細な事から、再び自分の心に嘘をついてしまいました。
同じ頃、人の世では、男の子が元気な産声をあげています。
その男の子は龍之介と名付けられ、やがて養子として芥川家に出されることとなったようでございます。
最初のコメントを投稿しよう!