花蓮《はなはす》の池

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御釈迦様は話し終えられると、彦兵衛の心遣いに感謝したご様子で、微笑みをお浮かべになって彼の横を通り過ぎようとされました。 「御釈迦様。先ほどから美しい銀色の糸が、指先に(から)まっておられますよ」 「わかっているでしょうに。地獄のカンダタを眺めていたのです」 水晶のような透き通る水をたたえた花蓮(はなはす)の池は、やわらかな(ひる)の日差しに照らされていました。 それから、かなりの歳月(としつき)が流れ、辰年(たつどし)のある日のことでございます。 極楽の彦兵衛は些細(ささい)な事から、再び自分の心に嘘をついてしまいました。 同じ頃、人の世では、男の子が元気な産声(うぶごえ)をあげています。 その男の子は龍之介と名付けられ、やがて養子として芥川家に出されることとなったようでございます。 image=511320730.jpg
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