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花蓮《はなはす》の池
彦兵衛は、その日、ぽっくりと亡くなったのでございます。
若い盛りを通り過ぎたとはいえ、老人と呼ばれるには、まだまだ程遠い年頃でございました。
畑仕事の帰り道、大名行列に気付いて道の脇へ一歩踏み出したのが運の尽き。
このところの長雨で道草に水がたくさん含まれていたせいか、兎にも角にも足を滑らせ、倒れた所にあった大石に鈍い音をたてて頭をぶつけてしまいました。
なんとも運の悪い有様です。
大石に頭をぶつけてしばらくして、彦兵衛は何ともいえない好い匂いの漂う極楽に佇んでいました。
「そうか、死んでしまったか」
彦兵衛はしきりと懐かしさを感じていました。
極楽に居ると、森羅万象が当たり前のように理解できるのです。苦労して書物を読む必要もなく、当然のように全ての物事の成り立ちが頭の中に存在しているのです。
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