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第二章 窓のない屋敷
目醒めると、ぼうっと霞む視界の中、少しずつ見えて来たのは、真っ白な天井だった。
・・・わたしは、死ぬ事が出来なかったのだ。
そう悟った時、死を決意した時よりも更に深い絶望感がわたしを襲った。
あんな場所から落ちたのに、何故。
辺りに人気は無いことを確認したし、あの荒れた海に落ちれば一瞬にしてその奥に飲み込まれ、二度と地表に戻ってくる事など無いと思っていた。むしろあの岩場に打ち付けられた瞬間、この身は破片となり、宙に消えて無くなるものだと思っていたのに。
意図せず生きながらえてしまった絶望に打ちひしがれながら、まだぼんやりとする頭で、わたしはゆっくりと起き上がった。
しかしその違和感に気付くまでには、それほど時間はかからなかった。
・・・身体が痛くない。
わたしはゆっくりと視線を下に落とした。
Tシャツの袖から伸びるマッチ棒の様な丸みのない、青白い手足をなぞってみても、そこには傷ひとつ付いてはいなかった。
視線をあげると、更にわたしは困惑することとなる。
そこに広がっていたのは、四方を無機質な壁に囲まれた、殺伐とした窓のない部屋だった。
あるものといえば、その壁の中のひとつに、一際目を引く大きな扉があるくらいだ。そしてそれを開ける以外に、わたしがこの場所から逃れられるすべは無いように思えた。
ここは何処なのだろう。
わたしは、どうやってこの場所にやって来たのだろう。
何も考えたくない頭の中、それとは裏腹に、そんな疑問がふつふつと湧いてくる。そしてその答えは、いくらこの場で考えたところで、わたしに知るすべなど無かった。
あの扉を開けるしかない。
わたしは重たい身体と心を奮い立たせ、まだおぼつかない足元の中、一歩、また一歩と、一際大きな扉に向かって歩き出した。
目の前に迫った扉は、先程いた位置で見るそれよりも更に大きく見えた。その重厚な作りや、醸し出す雰囲気はまるで、それに触れようとするものを無言で威圧しているようにも見えた。
・・・ここを、開けなければ。
その威圧感を何とか跳ね除け、ドアノブに手を伸ばした瞬間、
カチャッという音とともに、向こう側から扉が開いた。
そしてわたしの目の前に、すっと一本の、わたしのそれよりももっと白い手が現れたのだ。
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