第1章 終わり

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最後に見た景色。 凍てつくような真っ黒な風の中で感じた、潮風。 その先に蠢く、全てを飲み込むような、底の見えない暗く閉ざされた海。 わたしは、今日ここで死のうとしている。 崖の下には、不気味なほどに一定のリズムを刻んで押し寄せる荒波と、それとぶつかり合い鋭い水飛沫をあげる岩山が広がっている。 「自殺した人間は、天国には行けないんだって。 だってこの世は、修行の場だから。 それを放棄した人間には、罰が待ってる。 だから、どんな事があってもがむしゃらに生きない といけないんだよ。」 ずっと前にそんな言葉を言われたような気がしたが、もう誰に言われたのかも忘れてしまった。それ程に、わたしの心は、この潮風のように、冷たく、暗く、凍りついていた。 死んだら人は何になるのだろう。あるいは、何にもならないのだろうか。 ・・・考えたところで、わたしの出した結論に変わりはない。 わたしは一歩、また一歩と前に進んだ。 未練などない。心の中にあるのは、失ったものへの哀しみ、そして愛しさだけだ。 わたしの足が、その裏に感触を失った瞬間、 身体は宙に浮いた。 この身はすとんと吸い込まれて行った。 大きな口を開けて待っている、真っ暗な荒波の中に。
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