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「来たばかりの日なんて、俺は誰とも話すことすら出来なかった。・・・あんたは、きっといい子なんだな。とりあえず今日はしっかり休めよ」
そうそう、と、ナナも続ける。
「何も覚えていないのって、自分を支える軸が無くなってしまったみたいで・・・とても怖いのよね。
でもきっと大丈夫よ。少しずつ思い出すわ。
そうしたらあなたというものが見えてきて、またしっかり立てるようになるから。今のわたしみたいにね」
気付くと、頬を何かが伝った。
・・・・あれ、何だこれ。もしかして、わたしは泣いてるのか。
記憶は残っていないけれど、悲しみや絶望以外の理由で涙を流したのは、とても遠い昔の事だったように思えた。
「・・・行こうか。」
サエトの穏やかな声がした。
2人に見送られながら部屋を出て、わたしはその背中を追って廊下を歩き出した。
つい先ほどこの部屋に向かって歩いていた時よりも、ほんの少しだけ、心の奥に光が灯ったような気がした。
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