第5章 与えられた仕事

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「いるわよー!今、ちょうど彼女にここでの暮らしのこと、話そうかと思ってたところなの」 入るなー!という威勢の良い声とともに、タイチが扉を開けて顔を覗かせた。 「新入りさん、俺も一緒にいいか?」 はい、と答えると、タイチはありがとう!と部屋の中に入ってきた。部屋の主に許可を得てから入室する様子から、人懐っこく豪快な印象とは裏腹に、彼の律儀な性格が垣間見えた。 わたしが椅子を譲ろうと立ちあがろうとすると、タイチは手ですっとそれを制止した。 「いいよ、俺はここで大丈夫だから」 間髪開けず、彼は私たちの側の床であぐらをかいた。 「今日は今のところお呼び出し無しね」 そんなタイチに向かって、ナナは言う。そうだな、と、タイチはナナに笑顔を見せた。彼が笑うと、まるでそこに花が咲くみたいだ、とわたしは思った。 「お呼び出し、っていうのは…何ですか?」 ふと疑問に思い口にすると、ふたりはぱっと顔を見合わせ、そしてわたしをみて微笑んだ。 「新入りさん、話してくれて嬉しいよ。そうやって、なんでも聞いてな」 タイチが言うと、うんうん、と、ナナも頷く。そして少し咳払いすると、心なしか、改めて背筋を伸ばしたように見えた。 「まず、わたしたちの仕事のことを、説明するわね。わたしたちの役割は、この屋敷の主に支えること、っていうのは、もう知っているわよね?」 はい、と頷くと、それにタイチが続けた。 「俺たちはそれぞれ、大まかに役割分担を持っている。例えば俺は、屋敷の整備や清掃だ。ご主人様の部屋の清掃、ベッドメイキング、風呂の準備や後片付け・・とかな。その他にも呼び出しがあれば、雑務もしてる」 聞きながら、ナナも頷く。 「わたしは、主に調理を担当しているわ。朝昼晩の食事の用意に、ティータイムや、呼び出しがあればその都度、希望のものを作って提供しているの。あなたには、これからわたしと一緒に担当してもらいたいわ」 わたしに出来るだろうか。生前の記憶がない為、自分がそれを得意とするのか否かも、今の時点では判断がつかなかった。 そのとき、ナナがすっとわたしの肩に手を置いた。その顔をみると、大丈夫、と呟く。 「はじめから完璧になんて、考えなくていいわ。とりあえず、あなたはわたしの補佐みたいな、感覚で居てくれればいいのよ。全部わたしがちゃんと教えてあげる。だから心配はいらないわ」
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