三日目 青い鳥の応援歌

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「ありがとな樹。樹のおかげで早太に想いを伝えられた」 「いや、あれはル―ががんばっだがらだよ。ル―がぞうだぐんをだいぜづに想って、歌をうだっだがらづだわっだんだ」  酷い顔ながらもまじめな表情で樹はル―に答えた。  そんな樹に水沢はため息をつき、ポケットからハンカチを取り出すと樹の顔にそれを押し付けた。 「取りあえず顔拭け。良い事言ってもその顔じゃ台無しだぞ」 「ちょっと、押しつけなくてもいいじゃないですか。窒息しますよ」  借りたハンカチで顔を拭いながら、樹が水沢に文句をたれる。 「お前、借りといて文句言うのか。ずうずうしい奴だな」 「そう言うことじゃなくて。貸して頂いたのは有り難いですけど、渡し方ってもの…」  樹が言っている途中で「うるさい」と水沢は樹の口を手でふさいだ。それからル―の方に顔を向ける。 「もういいんだな?」 「はい。きちんとお別れもできましたし、あと言いたいことは手紙に書きます」 「そうだな。それじゃあの子を家まで届けてくるか。お前はどうする」 「俺はここでお別れしようと思います。ここを離れてしまったら、どうせ早太には俺の姿は見えませんから」 「わかった。んーじゃ、あの子を呼んできてくれ」 「はい」  頷くとル―は早太を呼びに駆けていった。 「水沢さん」  ル―の背中を見ながら樹は水沢の名を呼んだ。 「なんだ」 「妖怪も人も大切な者を想う気持ちは変わらないんですね」 「…急にクサいセリフを吐き始めてどうした」 「な…人がまじめに話しているのに茶化さないで下さい」 「突然言い始めるから何かと思ってな。―――まぁ今回はたまたま上手くいっただけだ。前に『妖怪と人が理解し合うことなど決してない。お互いをただ利用し合っているだけだ』と、そう言った奴がいるな。誰だか忘れたが」  樹は顔をしかめながら「殺伐としてますね」と呟いた。 「そうだな。だが、そう思っている奴もいるんだ。こいつらみたいな感動話だけじゃない。だから、あまり妖怪に気を許し過ぎるなよ」 「半妖のあなたが言いますか」  樹が言うと、水沢はにやりと笑った。 「半妖だから言うんだ」  どういうことかと樹が聞こうとした時、ル―と早太が近づいてきた。 「さて、そろそろ御開きの時間だな」  そう言うと水沢は黒龍の姿に身を変えた。  樹と早太が乗ると、水沢はふわりと体を持ち上げた。 「ル―、元気でね」 「ああ、早太もな。絶対手紙書くからな」 「うん、待ってる」  ル―と早太はお互いの姿が見えなくなるまで手を振り合っていた。  水沢はああ言っていたが、それでも彼らの友情が変わらずにずっと続いて欲しいと、二人の姿を見ながら樹は願った。                   *  後日、樹はル―の歌を録音し、手紙も全て訳して早太に送った。ル―の住所は事務所のものを書いておいた。それ以来度々二人は手紙のやり取りをしている。  そんなやり取りを微笑ましく思いながら、樹はル―の手紙を訳すのだった
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