プロローグ 就職活動

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長めの黒髪を背に垂らし涼しい目元でこちらを見る姿はなんとも浮世離れしている。 「あ、えっと、原田樹と申します。よろしくお願いします」 「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。面接と言っても堅苦しいものではなく、気楽にお話しして我が社のことを知ってもらおうというものですから」  そう言って水沢は樹に座るよう手で示し、自分も向かい側の椅子に腰を下ろした。水沢と目線の高さが同じになり樹は緊張で爆発しそうだった。 「どうぞ」  頭上から声がし、目の前にお茶の入ったカップが差し出された。見上げると最初に樹を案内した女性が無表情でお茶を差し出していた。 「ありがとうございます」  お茶からは花の甘い香りがする。飲んでもいいのだろうかとちらりと水沢に目をやると、水沢は「どうぞ」とすすめた。 「これは緊張をほぐすハーブを使っているから落ち着きますよ」 「そうなんですか」  樹はそっとカップを傾け口に含む。甘くスッとする香りが口に広がる。カップの三分の一ほど飲むと、鼓動もだいぶ収まってきた。 「さて、落ち着いたところでそろそろ始めましょうか」 「はい」 「まずは原田君にこれをやってもらいたい」 そう言って水沢は一枚の紙とペンを差し出した。紙にはどこの国の言葉かわからないが、文章が書いてある。漢字に近いような文字だがもっとぐねぐねとしており、ところどころヒエログリフのように鳥や虫などをかたどった記号もあった。一行で終わる文章が十ほどあり、それぞれの文章の下にある程度の空間が設けられている。 「ここに書いてある文章を和訳してもらいたい」 「え?」  思わず聞き返してしまった。この落書きだか暗号だかわからないものを和訳しろと。 「あの、この文章を解くヒントとかないんですか?」 樹が聞くと水沢はにこりと笑った。 「大丈夫、君ならこの文章が理解できるはずです。さてそろそろ問題に取り掛かりましょうか。この文章の下に訳を書いていって下さい。制限時間は5分です」  そう言って水沢は自分のしている腕時計を見た。 「用意、始め」  条件反射で樹はペンをとり文章と睨みあう。 ―――和訳しろって言ってもな  樹はまず最初の文から順々にざっと目を通した。絶対解けないだろこんなの。なかば諦め気味に文章を眺めていたが、ふと文章の所々に見覚えのある文字を見つけた。
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