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婉曲な言い方もせず正直に答える。それしか言葉が浮かばない。樹の答えを聞き、水沢はしばらく考えこむように黙り込んだ。樹は落ち着かずそわそわする。 水沢が次に何を言い出すか怖々待っていると、水沢は突然樹ににっこりと笑いかけた。その笑みに言いようのない不安を感じる。
「原田君はまだここの仕事がどういうものかわからなくて不安なんですよね?それなら一カ月間インターンシップをしてみるのはどうでしょう。インターンシップと言ってもきちんとお給料は出しますよ」
「インターンシップ…」
まさかここでそんな言葉を聞くとは思わなかった。
「まずは一カ月仕事を体験してみて続けられそうならそのまま入社、だめなら御縁がなかったということでこちらも諦めます。ちなみにインターンシップ中の時給は1500円で」
「1500円!」
8時間働いたとしたら1万2千円か。一日分の給料が単発バイトよりも良いじゃないか。我ながら現金だとは思うが、一気にこの事務所で働く方へ気持が傾いた。たった一カ月だ。転職活動の軍資金を貯めるにはいいかもしれない。
「…わかりました。一カ月よろしくお願いします」
樹が頭を下げると水沢は嬉しそうに「ありがとう」と感謝を述べた。笑顔で喜ぶ水沢を見てこれで良かったのかもしれないと思う樹だったが、数日後、タイムマシンがあればあの時に戻って殴ってでも自分を止めるだろうと振り返ることになる。
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