一日目 挨拶回り

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 初日から説教され樹はうなだれる。まさか契約書を渡す段階からこんなにボロクソ言われるなんて。一カ月やっていけるだろうか。 「ちょっと所長。初っ端から新人くんをいじめないで下さい」  ふいに上から女性の声がした。樹が顔を上げると、昨日パソコンに向かっていた女性がお茶を運んで来てくれていた。 「ごめんね、うちの所長口が汚いというか不器用な言い方しかできなくて。ほんとは自分みたいな悪い奴に騙されないように気をつけろよって言いたかっただけなの」  そう言ってにっこりと樹に笑いかけた。 「おい言葉の端々に悪意を感じるぞ、穂群(ほむら)」  穂群と呼ばれた女性は丸く黒眼勝ちな瞳を水沢に向け、「えへへ」と照れ笑いする。それから樹の方へ向き直り、身をかがめて樹に視線を合わせた。 「自己紹介がまだだったね。私は穂群想(ほむらそう)。ここで働き始めて2年になります。よろしくね」 「あ、俺は原田樹といいます。よろしくお願いします」  樹が頭を下げると穂群は「そんなに緊張しなくていいよぉ」ところころと笑った。樹はその可愛らしい笑顔にしばし見とれる。 「それじゃ私は自分の仕事に戻るね」  穂群が自分の机に戻るのを見送っていると、「おい」と水沢に声をかけられた。 「お前、鼻の下のばすのはいいが、あいつああ見えて百を過ぎたばあさんだからな」  水沢は可哀想なものを見る目で樹を見てくる。 「あいつは人の皮かぶった化け狐だから油断するなよ?」 「えっ」  樹はパソコンに向かう穂群をまじまじと見る。彼女が化け狐?嘘だろ。樹が呆然としていると水沢は一つ咳払いをした。 「さて邪魔が入ったが、話を戻すぞ。とにかくこれからは一癖も二癖もある妖怪と仕事をすることになるから、自分の頭でよく考え行動しろ。わからないことがあれば実行する前に聞け。わかったな?」 「はい…」 「それじゃ仕事の詳しい説明をしていくが、その前にまず妖怪の世界について説明しなければいけないな」  水沢の言葉に樹はこくこくと頷く。樹には仕事の内容以前に聞きたいことは山ほどあった。その中でも一番聞きたいのは… 「あの、先に質問なんですが、なんで急に妖怪を見えるにようになったんでしょう?」
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