二日目 天狗の奉公

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二日目 天狗の奉公

「おはようございます」  眠い目をこすりながら事務所の扉を開ける。昨晩は竜に乗るという人生初の体験をしたおかげで、興奮してほとんど眠れなかった。やっと、うとうとと浅い眠りにつき始めたのが三時頃で、気が付くとカーテンの隙間から朝日がさんさんと差し込み、時計の針は七時半を差し示していた。  インターンシップ中は八時出社となっており、樹は朝食も取らず車を飛ばして事務所まで来たのだった。 「おはよう」  想の明るい声が樹を出迎える。 「おはようございます。だいぶお疲れのようですね」  事務所の奥からコーヒーを運びながら、涼も気遣うように樹に声をかけた。 「ありがとうございます。昨日は興奮してしまってなかなか眠れなくて」  席につき、樹は苦笑しながら涼からコーヒーの入ったカップを受け取った。 「あんな体験しちゃったら無理もないけどね」  パソコンをいじりながら想がふふっと笑う。 「でも今日からお仕事デビューなんだから気を抜かないようにね」  想の言葉に樹は顔を引き締め頷いた。  そう、今日から数日は一人で太郎坊の元へ向かい、身の回りの世話しなければいけない。しかし身の回りの世話とは一体何をするのだろうか。水沢は本人に聞けと言って教えてくれなかった。  掃除、洗濯、料理などだろうか。もしそうだとしたら樹にはこれらの仕事をこなせる自信が無かった。一人暮らしをしていた時もろくにやってこなかったが、実家に戻ってからは、ほとんど母親に任せきりだったからだ。 「あー、大丈夫かな」  樹がため息をついた時、事務所の扉がガラリと開いた。 「おはようございまーす」  明るい声が事務所に響き渡る。  えっ、と思い樹がそちらに顔を向けると、十五、六歳ぐらいの女の子が立っていた。 「あら、千尋ちゃん。今日は早いわね」  玄関に立つ少女に顔を向け、想が微笑んだ。 「水沢さんから、樹さんをおじいちゃんの所まで連れてってくれと頼まれて」  そう答える千尋の背後から、水沢がすっと現れた。 「遅れずに来てたか、樹」  樹の方を見て、水沢は意外そうに言った。 「昨日の様子から、今日は遅刻してくるかと思ったが…」 「流石に社会人なんですから、そんなことはしません」  樹が言い返すと水沢はふっと笑った。だがすぐ表情を戻し、千尋に中へ入るよう促した。
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