躑躅が咲く頃

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「通り雨だったみたいだな」  暫くして、雨は上がり雲の切れ間から茜色の日が差し込んできた。 「そろそろ帰ろうか」 「そうだね」  僕らは並んで歩いた。雨に濡れたつつじはさっきとはまた違った趣がした。 「ねえ、これあげるよ」  安斎はそう言うと、僕の手に真っ白いつつじを一輪、握らせた。 「お前とったのか」 「一本ぐらいいいでしょ」 「そんなわけないだろ」  とは言っても、今更つつじの中に戻したところで如何にかなるわけでもない。 「……持って帰ってよ。今日の記念に」 「……失恋の記念にか」  告白するまでもなく振られた記念ってどうなんだ。 「……そうかも」  安斎は泣き笑いのような顔で言う。僕もきっと似たような顔だったに違いない。  それから二日後、安斎は学校を去った。随分前から転校することが決まっていたらしい。新しいところでもう一度やり直すらしい。  僕が三年生になると先生は寿退職をした。僕がおめでとうと言うと、先生は心から幸せそうな顔でありがとうと答えた。  受験生となった僕は図書室で勉強することが多くなった。参考書を取りに書物が並んだ棚を物色していると、花言葉を扱った本が見つかった。息抜きがてら手に取りぺらぺらと眺めてみる。いろいろあるもんだな。なんとなく、僕はつつじの花言葉を調べてみた。  花言葉は節度、慎み。 「……あいつ」  もしかして皮肉ってたのか、僕じゃあ分不相応だって。猫のような瞳の彼女が思い起こされる。本を戻そうとしたところで、ページの端に書かれた文字を目にする。  つつじはその色によって花言葉が変わる。  白いつつじの花言葉、初恋。
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