3人が本棚に入れています
本棚に追加
「通り雨だったみたいだな」
暫くして、雨は上がり雲の切れ間から茜色の日が差し込んできた。
「そろそろ帰ろうか」
「そうだね」
僕らは並んで歩いた。雨に濡れたつつじはさっきとはまた違った趣がした。
「ねえ、これあげるよ」
安斎はそう言うと、僕の手に真っ白いつつじを一輪、握らせた。
「お前とったのか」
「一本ぐらいいいでしょ」
「そんなわけないだろ」
とは言っても、今更つつじの中に戻したところで如何にかなるわけでもない。
「……持って帰ってよ。今日の記念に」
「……失恋の記念にか」
告白するまでもなく振られた記念ってどうなんだ。
「……そうかも」
安斎は泣き笑いのような顔で言う。僕もきっと似たような顔だったに違いない。
それから二日後、安斎は学校を去った。随分前から転校することが決まっていたらしい。新しいところでもう一度やり直すらしい。
僕が三年生になると先生は寿退職をした。僕がおめでとうと言うと、先生は心から幸せそうな顔でありがとうと答えた。
受験生となった僕は図書室で勉強することが多くなった。参考書を取りに書物が並んだ棚を物色していると、花言葉を扱った本が見つかった。息抜きがてら手に取りぺらぺらと眺めてみる。いろいろあるもんだな。なんとなく、僕はつつじの花言葉を調べてみた。
花言葉は節度、慎み。
「……あいつ」
もしかして皮肉ってたのか、僕じゃあ分不相応だって。猫のような瞳の彼女が思い起こされる。本を戻そうとしたところで、ページの端に書かれた文字を目にする。
つつじはその色によって花言葉が変わる。
白いつつじの花言葉、初恋。
最初のコメントを投稿しよう!