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「結構降ってきたな」
努めて明るい声が言うが返事はない。雨は次第に勢いを増してザーザーと音を立て、辺りに降り注いでいる。
制服が体に張り付く感じが気持ち悪い。カバンからタオルを取り出し、体をふきながら安斎の様子を窺う。彼女は直立不動のまま動こうとしない。濡れた制服が透けて下着が見えそうになっている。顔を逸らしながらタオルを安斎に放り投げ背中を向ける。
「ほら、そのままだと風邪ひくぞ」
「……ありがとう」
彼女は小さく呟く。それからタオルで髪をぬぐう音がした。
「上手くいかないもんだよなぁ……あぁ、早く大人になりたいよ」
東屋のベンチに座りながら呟く。安斎は答えない。
「まぁ、そんなこと言ったってどうしようもないんだけどな」
相変わらず安斎は反応してくれない。ただ、ぬぐう音は消えていた。
「えっとな、安斎が気にすることじゃないからな。むしろ感謝してる。おかげでフラれる経験しなくて済んだからな」
本当はわかっていた。先生に彼氏がいることも、僕のことを仲の良い生徒としか見ていないことも。どうあがいたってこの想いが通じることがないってことも。
「……そっか」
安斎はそれだけ言葉にした。
それから雨が止むまで、僕らは一言も喋らず、ただザーザーと降り続く雨の音を聴いていた。
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