膝掛けの君

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学級委員。 それは内申点稼ぎにはもってこいだから、受験する高校生たちはこぞってなるものだ。 しかしそれも受験する場合の話。 うちのような学部が大量にある大学の付属高校にそのような真面目な人間はほとんどいない。 クラス替え早々毎年押し付け合いである。 去年くじ引きで大当たりを引き当ててうっかりなってしまったのが運の尽きで、今年は「去年やっていたし慣れているでしょう?」 といあノリで頼まれた。これはこれは随分有り難いなぁ……。 代表の挨拶やスピーチももちろんあるが、大概の仕事は雑用だ。 冊子作りやら何やら。 今日も放課後に残って作業をしている。 最初は続いた集中力もだんだん落ち、淡々とした作業に飽きてきている。 「ん…………」 思いっきり伸びをして机に突っ伏した。 疲れたなあ。少し休もう。 ……………… 「っ?!」 少しのつもりがかなり寝てしまった。 慌ててガバリと身を起こすとパサっと何かが床に落ちた。 拾い上げると、この学校の生徒がよく使っている膝掛けだった。 誰かがかけてくれたらしい。 寝すぎたせいでだいぶ寒くなってきている。 これがあって助かった。 でも誰がかけてくれているんだろうか。 机の横にカバンが残っているあたりまだ2.3人いるらしい。 筆箱から付箋を取り出して「ありがとう」と一言書いて机の上に置いておいた。 次の日になった。 直接お礼を言いたいが、誰なのかわからない。 どうしたものかな……、ん? 机の中に教科書を入れようとしたところでカサリと音がした。 取り出すと一枚のメモだった。 「お役に立ててよかった。最近は寒いから気をつけて」 名前は書いていないのが残念だったけれどすごく嬉しかった。 それから何度かこの出来事は続き、私は膝掛けに付箋を貼り付ける。 膝掛けの持ち主はメモを机の中に残すと言う不思議な文通が続いた。 「いつもありがとう」 「ううん。学級委員大変だね。お疲れ様」 「最近暖かくなってきたね」 「もう南の方は桜が咲いたらしいね」 誰かはわからないけれど私の中で勝手に『膝掛けの君』と呼んでいる。 私は膝掛けの君が気になって仕方がなかった。 なんとか膝掛けの君の正体を見破ろうと寝たふりをしてみたこともあったが、寝たふりは完全に読まれているらしい。 「ダメだよ。フリだったら」 「あなたは誰なの?」 「秘密」 教えてくれないらしい。 でも私は割とすぐにその正体を知ることになる。
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