桜の木の下では

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母校に植えられた桜は、毎年美しい花を咲かせる。 今年もバスケットボールのケースを片手に、この桜を見に来てみたが、珍しく先客がいた。 「後藤先生!」 太っちょの後ろ姿だけでなんとなくわかる。 高校で3年間担任をして、なおかつバスケ部の顧問までしていたのだから、流石に見慣れていた。 「おお、平井か。久しぶりだな。」 「お久しぶりです。まだ春休みなのに出勤ですか?」 「教師に春休みはないんだよ。」 「そっか…」 たわいもない会話をしつつ、先生の隣に立ち、持っていたボールケースをおろす。 「まだバスケやってるんだな。」 「はい、時々。趣味でこれからも続けると思います。きっと顧問が良かったからですね。」 「まあな。」 先生はそれだけ言うと黙ってしまった。 花吹雪とは良く言ったもので、本当に花弁が雪のように美しく舞っている。 しばらく何も言わず黙っていると、先生が言った。 「丘本は、まだ見つかってないんだろ。」 「…はい。」 丘本佑二。 高校の頃に付き合っていたが、高校卒業後の春休み中に失踪し、未だに見つかっていない。 「平井はまだ待っているのか。もう8年だろう。」 「8年…もうそんな経つんですね。でも、私、佑二は必ず帰ってくるって信じてるんです。」 「…そうか。早く見つかるといいな。」 後藤先生はそういうと振り返り、私の肩を優しくポンと叩くと、校舎の方へ歩いて行った。 この桜を見つめていると佑二との記憶がたくさん甦ってきた。 「佑二が告白してくれたのもこの桜の前だったっけ…。今年もこんなに綺麗に…。」 そう呟くと私はこの大きな桜の木の周りをゆっくりと回る。 「本当に綺麗…佑二にも見せたいな…。」 そのまま先生と立っていた場所に戻ると、私はボールケースを拾い上げ、ファスナーを開けた。 「桜の木の下には死体が埋まっている。」と言うけれど、この桜は違う。 この桜の木の下では死体が毎年、思い出のこの桜を見に来るの。私に連れられて。 私は徐にボールケースの中の頭蓋骨に触れる。 「ね?桜、今年もきれいでしょ?佑二。」
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