カサブタの下、誰も知らない梅宮の日常。

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”海苔弁姫のこと” 「ねえFさん、駅前通りずーっと真っ直ぐ行くとタタラ川渡る橋にぶつかるじゃないですか、で橋を渡り終えた所に山田うどんあるでしょ、いや山田うどんじゃないか、くるまやらーめんか。でその隣にランドリーがあってその隣ですよ、弁当屋あるのわかります?ほっこり弁当。ウケますよねほっこりって。そんなに寄せなくてもいいのにって。あ、で俺ね、そのほっこり弁当に一時期よく通っていたんですよ。」 同じバイト先の岡谷が話しかけてくるのは決まって深夜二時過ぎ。客もまばらになって各々キッチンで仕込みの作業を行うとても暇な時間を狙って彼は口を開く。 …へえ、その弁当屋そんなに美味しいんですか? 「えっ味ですか、うーん特別美味しいとかってわけではないですよ。ああ、かと言って値段が安いわけでもないです。あっ弁当の種類!いやメニューは全く豊富じゃないです、普通の弁当屋と大して差はないんじゃないかな。そもそも他の弁当屋に行かないから差なんてわからないんですけどね。つまりその弁当がどうのこうのとかって話しではないんですね。」 じゃあ何故通っていたのか、そう私に聞いてほしいのだろうか、岡谷はそこまで言うと言葉を切り、フロントで無料で配っている杏仁豆腐の仕込みの作業を涼しい顔をして再開した。 別段彼の話に特別な興味があるわけではないが、聞かないのも悪い気がしてしまい、じゃあっと言いかけた瞬間、 「海苔弁姫。」 えっ?っと顔を上げた私の目を真っ直ぐに見つめ岡谷はもう一度言う。 「海苔弁姫。…その店に行くと海苔弁姫に会えるんですよ、Fさん。」
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