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岡谷がその弁当屋に足を踏み入れたのはその海苔弁姫なる女の子と出会い、導かれたからだそうだ。
「最初は公園で見かけたんです。なんかある日突然ブランコに乗りたくてその公園に行ったんですけど。まあひとしきり乗ってちょっと疲れたなって思ってベンチで一服していたら、向かいのベンチに妙に気になる女の子が座っていて。なんかね、顔が、こう右斜め上に傾いているって言えば良いのかな、いや別に大しておかしなことでもないんだけど、なんか目についたんですよ。あっそう空から聞こえる天使の歌声に耳を傾けるみたいな感じで。それで視線も顔と同じく右斜め上に傾いている。そうあとそれで終始独り言を呟いているんです。歳は12~15ってところ、平日の真っ昼間にこんなとこで独り言なんて同情の余地ありだなってしばらく目を細めて眺めていました。あっあとブランコってなんか突然乗りたくなりますよね。なんだろう疑似ジェットコースターみたいな!ジェットコースター乗った時の腹にくる感じが手軽に得られるみたいな。そうよく遊園地に行く前の日とかに身体慣らしておこうってよく乗ってたなあ。Fさんもよく乗りませんでした?遊園地行く前の日。」
…あの、その子が海苔弁姫なんですか?
「あっそうです。話しが逸れちゃいましたね。そう、それで最初は眺めるだけだったんですけど、それじゃ済まなくなったんです。」
一体どう済まなくなったのか、そう私に聞いてほしいのだろうか岡谷はそこまで言うと言葉を切り私の目を潤んだ瞳で真っ直ぐに見つめる。何かを求めている目である。正直そのわけのわからない女の話しなど聞きたくもないけれど、まあここは聞くのが礼儀であり、人間関係のモラルであろうと、”一体…”と口を開きかけた瞬間ー。
「彼女ね、人を殺し始めたんですよ。」
岡谷はそう言った。
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