死に抱かれて

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「当然よ、あの男は私を殺した。頭が繋がって産まれてきた私たちに『可能性のある方を』と医者に言ったのよ、親なら『決められない』と言ってしかるべきよ」  夢で父が「リカ」について謝っていたことと私の頭に残る傷の理由が繋がった。それにこの状況に至った理由も分かった気がした。姉の脳が私には混じっているのだ。  しかし身体を共有する私に父のそんな記憶はない、姉の記憶を探る。答えはすぐ出た、姉は私が寝ている間に両親の会話を聞いていたのだ。 「それは後付けね、私が『眠れ』ば何でもよかったんでしょ?」 「それは少し違う。私はあなたに永遠の『眠り』に就いて欲しいのよ」 姉は一つおく、やはりそうか……。 「私には時間があった、計画を立て始め5年。完璧なものになったし、成功した」 「あなたは、母の死によって『眠り』に就いた私の体を使って父を殺したのね」  だが私が「完全に」操られた理由が分からない。彼女の答えを待つ。 「そう、やっと実行に移せると思ったわ。今までのストレスは、あなたの側に倒れているメーター、身体の支配を表すメーターの針を少しこちらへ振らすぐらい。でも」 「今回は違った」 私は代わりに答えた。だからこそ私は今の今まで母の死による「眠り」に就いたことを忘れていたのだ。「完全」に支配が移ればその間の記憶は私の脳にはほとんど残らない。「眠り」から覚めた記憶、「眠っ」た原因である母の死の記憶すらもだ。 「母の死はメーターを私の側まで極端に振った。『完全に』支配したら計画を実行するだけ、あなたを永遠の『眠り』に就かせるために父を殺す。自分の手で父を、しかも病気で母を亡くし悲しんでいる父を殺した、そんな記憶には誰だって耐えられない。警察にバレるようなヘマはしてないわ、5年も練ったのよ。第一、『私』には動機が無いから疑われもしないでしょうね」 言われて気付く私に「永遠」をもたらすには十分過ぎていること、そして「私」には動機がないことを。彼女は、姉はそこまで計算ずくだったのか……。もう私は全てを、いやほとんどを諦めた。そう、一つだけ捨てきれない事がある。 「彼を愛せるの?」 彼女は即答した。
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