死に抱かれて

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死に抱かれて

 私はよく眠る方かと聞かれたらそうでもないと答え、よく夢を見るかと聞かれたらそうだと答える。いや、実際は眠っているのかもしれない。だがあれを眠りと表現するのは違うだろう。夢に生きているというのが近い。「夢」では私は意識無しに会話をし、行動する。それは眠りだろうか、眠りを意識が失われ能動的に行動を取れない状態。とするならそれは眠りだ。しかしそれが一般的な眠りと異なることは分かっている。通常なら夢は妄想で勿論、現実ではない。それが普通の夢なのだ。  だが私は違う、私の「夢」は現実だ。それでは言葉足らずか、現実を夢のように見ている時があるのだ。私にとって「夢」と現実は意識があるか無いかの違いでしかない。  私が「夢」を初めて見たのは中学に入りたての頃、テストへ向け苦しんでいた時だ。使い続けてきた机に向かい私は数学を解いていた。小さい頃から勉強は得意だ。中学でもそれは変わらなかった。数学以外は。  なぜマイナスの数同士の積がプラスになるのか全く理解できない。そこに少数、分数、更には文字式が入り込むと解こうという気概が失せる。まさにその類いの大して難しくもない問題に1時間程費やしたそんな時だ。思考が断絶した。と同時に床に倒れる。ボーっと床からの景色をを眺めていると不意に視点が変わった。どうやら立ち上がったようだ。頻りに頭の傷痕を掻いている。といっても生々しいものではなく産まれた時の手術でできた痕だ、頭を掻きながら椅子に座る。ただひたすらに「眠い」。なのにそんなことお構い無しに私は数学の問題を解く、思考過程は分からないが手から答えが溢れ出る。これは夢なんだな、そう感じ私は「眠っ」た。 
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