死に抱かれて

3/10
前へ
/12ページ
次へ
 後に気付いた、私は変わったと。というより「表」に現れたのがその日というだけで元から私はそうだった。  次に「夢」を見たのはまたテスト前だった。前回と同様、思考が断絶し、目覚めたら翌朝だった。私は解かれた課題を見ても奇妙だとは感じなかった。 解く光景は憶えているのだ。意識が無くて何が悪い、私が解いたことに変わりはないのだし。苦労せずに課題が終わるなんて素晴らしいことだ。そう思った。  その後も私は何度かテスト前に「夢」を見たが幾つかの例外が出てきた。  1つ目は二年の二学期末テストの前だ。「夢」に慣れてきた私は、数学の問題集を開き「夢」を待っていた。しかし「眠れ」ない。 「変だ」 普段ならとっくに「眠り」に就いているはずなのだ。結局私は自分から眠った。当然課題は終わっていなかった。  2つ目は恋人とうまくいっていない時だった。一年の時、彼の方から交際の申し込みがあったのだ。私の彼への印象は大人しい人だな、というものだった。休み時間には大抵、教室で本を読んでいるし、成績も良いと聞いていたからだ。柔らかい顔つきもその印象を強めた。でも運動が苦手というわけではないらしい。バドミントン部に入り二年でレギュラーを取ったというから相当なものなのだろう。  初め私は断るつもりで 「今は答えられない、待って欲しい」 と返事した。彼は笑顔で 「ずっと待つよ」と言った。 だがどうしてか、授業中、入浴中、下校中、彼のこと、彼の顔が頭に浮かぶのだ。  私はいつの間にか好きになる。というのが嫌いだった。好きになりたいと思うから好きになるのだと考えていた。しかし実際私はいつの間にか好きになっていた。なんとチョロい女だろうか、そうも思ったが自分の気持ちに逆らってまで意志を通すのは単なるひねくれだ。私は彼に言った。 「よろしくね」 と、彼はどこか女性的で掴み所のない笑顔を浮かべながら「任せろ」と明るく返した。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加