第1章 当惑

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 茅那子は2本のの指でこめかみをさすった。じっとしていられず、ドアの方に歩いていく。  スタッフはそれぞれ個別に仕切られた席を持っているが、ホールの中央にはテーブルがあり、模型や設計図などが置かれていた。共同で作業する事がよくあるからだ。 「どう、大丈夫だった?」 社長の文江が声をかけてきた。彼女には月経不順で近くの産婦人科に行くと伝えていた。 「はい。ストレスによる不順だったようです。大丈夫です。ご心配おかけして、すみません」 嘘をついてしまった居心地の悪さから、茅那子は慌てて、頭を下げる。  グレーのパンツスーツを着た文江は40代のキャリアウーマンで、部下に対する誠実さは折り紙つきだった。そんな文江を茅那子は尊敬していた。  文江は考慮に入れなくていいだろう。彼女が妊娠させられるわけはないのだから……。
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