第9章 手紙

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 一方、オーナーである一郎と社長の文江は仕事の話をするうちに、プライベートでも距離を縮めていった。  一郎と文江が結婚することになっても、不平を言う人間はいなかった。  文江は実は資産家の娘で、有名大学を卒業していた。 「大学を卒業すると同時にね、許婚者が決まっていたの。相手は資産家の坊ちゃんで、大人しくてもやしみたいな人だったわ。家同士で話が決まり、何度かデートしたんだけれども、どうしてもこの人と一緒になるのは無理だと思って……。それで、結婚式の日取りが決まった時に、夜逃げをしたのよ。バッグの中に当座の着替えとお金を放り込んで、とりあえず、上京したの。それで今まで頑張ってやってきたんだけどね」  茅那子は驚きながら、文江の話を聞いていた。  文江といい、その子といい、肝がすわっていて、強い。
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