第9章 手紙

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 この施設に来てから、何となく毎日、落ち込み気分だったけれども、 「最後まで人生、笑って生きよう」 と言ってくださった、70代くらいの紳士がいたの。  その人もターミナルケアを選択した人でした。  一郎さんに面影が似ていて、素敵な人だなと思って……。  それからよく彼とお話しするようになりました。同じ境遇だから、共感しやすいのかな。  その人と会う前は薄く口紅を引いて、会ったら手を取り合って、お話しします。  遅まきの青春かな。恋をして、ボーイフレンドもできました。  だから茅那子さんも心配しないで、精一杯、生きてください。  一郎さんと文江さんには、このことは内緒にしてね。女同士の約束よ。  寛直と栄一のことをよろしくお願いします。                      敬具                                                           真下その子
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