第1章 当惑

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 看護師は検査結果を認めようとしない患者に慣れているのか、諭すように語りかけてくる。 「妊娠結果は確実なものです。だから超音波でも診たでしょう。もう赤ちゃんの体は2センチ弱ありますね。あなたは妊娠9週目です」  看護師が大真面目な顔をしているのに気づいて、茅那子は血の気が引いた。 「本当に……本当にそうなんですね? 私は30代ですからこの責任については勿論、理解しているつもりです。……でも、妊娠というものに全く関わりがないので、驚いてしまったんです。私は最近は、誰ともお付き合いしていないのです」 「じゃあ、お一人で妊娠されたとでも? そんなお話は聞いたことがありません」 看護師は場を和ませるようにおどけてみせたが、茅那子はとても笑えるような状態ではなかった。 「誰とも妊娠するようなことはしていないんです。本当です」 茅那子の発言に看護士は辛抱強く付き合ってくれたが、結果が裏返されることはなかった。 「ご出産するつもりでしたら、母子手帳を用意して来てください」 そう看護師に説明され、茅那子は打ちのめされるような気持ちで、病院から立ち去った。
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