第1章 当惑

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 茅那子は自分のデザインの才能を信じて、その手の会社に長年の間、努めてきた。インテリアデザイン業界は大勢の競争相手がひしめき合い、活路を見出せない茅那子の勤務してきた会社は潰れてしまった。今は撤退する後始末で大忙しだ。  そのためにここ数年は私生活について考える暇もないままにきてしまった。聖人ぶって禁欲しているつもりはないが、疲れ果てた茅那子に言い寄ってくる男性もいなかった。  それにお酒を飲んだ時の茅那子の行動といったら、手がつけられないものがあり、自分でも自制して禁酒してきたつもりだ。過去の苦い思い出に茅那子は胃がキュッと締め付けられる。  でも結局、禁欲も禁酒も無駄な努力だったのだろう。『妊娠』という事実がそれを表している。
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