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「……」
深い霧に覆われ、辺りを見回しても最早何があるのか見ることが出来ない、静かでカラスの鳴き声しか聞こえない濁った川。
途中で色々な物が流れてくる、腐った木や何かが入った袋…時には水ですっかりとふやけて、辺りに腐乱臭を撒き散らす腐った死体、そんなものまで流れてくる川の上を一つの光がゆらゆらと水の動きに合わせて揺れていた。
それは、一隻の小さな渡し船だった、そんな船の上には…先程から立ったまま、川から流れてくるものをジッと静かに見つめている…全身黒いボロボロな…魔女の服を身に付けた女性が居た。
紫の髪に鋭い赤い瞳をした、口元を隠したとんがり帽を被ったその魔女、そんな魔女に船の後方で舵を漕ぐボロボロで薄汚れた布を被った酷く腰が曲がった人物が言う。
「へ、へへ…お…お客さん…いいや、魔導師様…ほ、本当にあの…あの街へ行かれるんですかい…?」
そう偉く痩せこけた腕をした手で、舵を漕ぎながらそう船首は魔女に訪ねると、魔女は静かに冷たい声で。
「…ああ…何度もそう言っている」
そう、魔女が冷たな態度でこちらを振り向くことなく言う、そんな魔女に船首は。
「…ま、魔導師様が…そ、その…魔病を治されに行かれるんですかぃ…?」
そう船首が言えば、魔女は首だけを振り向け横目で船首に対して言い放った。
「…そのつもりだ、何か問題があるか?」
そう鋭く、冷ややかな赤い瞳で…まるで船首を睨み付けるように言えば。
「とんでもこぜぇやせん…!へ、へへ…!俺は一介のただの船首…お客さんがお望みの場所へ運ぶのが仕事…
へへ…問題なんかございやせんぜ…魔導師様…すいやせん、お、俺…お喋りが好きで…さ、最近めっきり客足が減ったもんで…ついお喋りし過ぎやした…
へ、へへ…ひひっ…」
そう船首が笑いながら言う、そんな船首の顔が…覆い隠された布の間から覗けば…その顔は酷く窶れていて、片目が白濁に覆われ目脂で汚れて、ハエが集っており…黄ばんだ歯を除かせ、黄色いネバネバとした…不健康そうなヨダレを口から垂らしながらニタリと笑う。
そんな船首を暫く眺めた魔女は、また静かに前に向き返った。
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