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「……村崎です。初めまして」
華が詩の警戒心を察知して、恐る恐る頭を下げる。
詩は深い呼吸を数回繰り返し、探り合うように視線を交わす二人の間に入った。
「元気そうだね、尚」
「詩も。大学、この近く?」
「うん、まぁ……尚は?」
「俺もそう」
「そっか」
例え顔を合わせると知っていたとしても、これ以上の言葉なんて、きっと用意出来なかったことだろう。
空っぽの頭の中を掻き回して言葉を探した詩は、だけど何も出てこないことに嘆息した。
──どんな話を、してたんだっけ。
痛みは未だ感じるのに、それ以外何も覚えていない。他愛ない話も、楽しかった時間も確かにあっただろうに、何も、詩の記憶には残っていなかった。
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