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シン──と、重い沈黙が落ちる。
呼吸さえ躊躇われるその静寂に、詩は責められているような気がして、心が落ち着かなくなった。
尚久は、詩の性癖を知っている。
それが怖くて、今すぐ逃げ出してしまいたいほどの衝動に呼吸を早める詩に、ふと割り込んだ新しい声が手を差し伸べた。
「香乃くん、どうかした? 何かトラブル?」
「っ、花御さん!」
ケーキ用の大きなショーケースに腕を乗せた男が、三角形に固まる詩たちを怪訝そうに見つめる。
詩はまだ記憶に新しいその声と確かに一瞬重なった瞳に、まさかと顔色を変えた。
「や、大丈夫ですっ。中学以来会ってなかった友達だったから、びっくりしちゃって……、すいません」
「あぁ、それで」
得心したような声の主が、尚久から視線を移す。
華、詩と目を動かした男は、わざとらしく詩で目を止めると、おや、と垂れ目がちの瞳を丸くしてみせた。
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