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「君は今朝の……」
「……どうも」
ついさっきも目が合ったというのに、改めて驚いてみせる花御に、詩は怪訝な様子を隠して頭を下げる。
代わりに食いついたのは、尚久だった。
「花御さん、詩と知り合いだったんですか?」
「ううん、全然」
「は?」
面白がって言葉を伏せる花御に、尚久がますます怪しむ様子を見せる。花御に任せようと口を閉ざす詩に、花御は小首を傾げて薄く笑った。
「今朝、彼が僕の財布を拾ってくれてね。カードや免許証が入ってる財布だし、嬉しかったからお礼したいって言ったんだけど、すぐ逃げられちゃって。残念だなぁと思ってたから、会えてよかったよ」
にこりと、さもそれが真実であるかのように堂々と言ってのけた花御は、苦い顔をする詩にクッと喉を鳴らした。堪えきれなかった笑みが花御の口元に見える。
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