缶コーヒーと名刺【*】

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「っ、ちょっと……!」 「君の気が向いたら、いつでも連絡して。待ってるからね」 「待ってるって、ちょっ……嘘だろ」  ひらひらと手を振る男の姿が遠くなる。  詩は手の中の名刺を見つめ、深く嘆息した。  確かに体に熱が渦巻いている時、相手探しから入るのは面倒で仕方がない。そういう時に決まった人がいるのは都合がいいのかもしれないが、詩は極力、そういう関係になることを避けてきた。  欲には、際限がない。  逢瀬を重ねるうちに、情が湧く。  相性が良ければ手放すのが惜しくなり、話が合えば別れるのが辛くなる。 そうして気がついた頃には、その誰かはきっと、自分にとっての特別になっているのだ。 「……連絡なんかしないからな」  憎らしげに呟き、詩が名刺を握り込む。  くしゃりと悲鳴をあげて丸くなったそれをポケットに突っ込み、詩は眉間に皺を寄せた不機嫌顔のまま、朝靄に霞む歩道橋を睨みつけた。
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