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中学生の頃、詩には好きな人がいた。
自分の性癖に気が付いてから人を避けるようになっていた詩にも、時間をかけて接してくれた心の優しい友人。
「詩は少し気を遣いすぎ。友達なんだから、ちょっとくらい我儘言ってもいいんだぞ」
くしゃりと髪を撫でる手が乱暴だったことも、伸びていた爪が少し痛かったことも、詩はまだはっきりと覚えている。
彼は詩にとって、特別だった。
親友と言えるほど近くにいさせてくれて、毎日馬鹿みたいなことで顔を見合わせて笑ってくれる、その優しさに。
中学生だった詩は、愚かにも期待をしてしまった。もしかしたら、彼の特別になれるかもしれない、と。
──馬鹿だよなぁ、俺も……。
急ぎ足に雲が流れていく空を見上げ、詩は手の中に握った缶コーヒーをコロコロ転がす。
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