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「探したよっ。ねぇ、いま時間ある?」
「時間? あるけど……」
「いいケーキ屋さんがあるの! 私もまだ行ってないんだけど、もし良かったら、今から行ってみないっ?」
期待に目を輝かせ、華が詩へと身を寄せる。
他の子のような化粧品ではなく、甘味好きな華らしい甘いお菓子の匂いに、詩は安心したように柔らかく頬を緩めた。
「いいよ、時間あるし」
「やった、ありがと! 新しく出来たばかりらしいんだけど、美味しいって噂で聞いたから、これはもう詩くんと行くしかないと思ってたんだ。楽しみだねっ」
ルンっと弾む足に、華の浮かれようが見て取れる。
詩は彼女に笑顔を返しながら、結局開けなかった缶コーヒーを自販機に備え付けられたゴミ箱へと捨てた。
ゴトンッと、鈍い音が詩の耳に重く響く。
一緒に手放した男の名刺を振り返ることはせず、詩は頬を紅潮させてケーキ語りをする華に、安心したように表情を和らげた。
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